地中海を牛耳るキラー海藻(変異型イチイヅタ)の話

*1


 放射線とか宇宙線とかで生物が突然変異して町中を暴れまわったり世界征服おっぱじめたりするのはもうSFアニメの鉄板ですが、現実にもコレに似たようなことが起こってるようです。

 それはウィルスでもなく古代生物でもなく「イチイヅタ」と呼ばれる海藻で、観賞用熱帯魚の水槽に入れる緑モノとして日本でもよく流通しているごくありふれた海藻なのですが、これの突然変異種が今、地中海の生態系を脅かすほどに繁殖しまくって大変なことになっているそうです。地中海の海底には上の写真のようにびっしりと緑が生い茂り、むしろ気持ち悪いくらいに緑一色らしいです。これのおかげで他の海藻は住処を失い、またその海藻をエサにする魚もどんどん駆逐されているようです。イタ飯からおいしい魚介類が消える日もそう遠くは無いかもしれません。

 きっかけは観賞用水槽の苛酷な環境。照明に含まれる紫外線によって遺伝子変異を起こし、よりパワーアップした「変異型イチイヅタ」になるのです。その生命力は従来のイチイヅタを激しく凌駕するため、もし水槽の外で繁殖してしまうと限りなく生息域を延ばしてしまいます。イチイヅタは熱帯育ちなので寒さに弱いのですが、この変異種は水温10℃まで生存可能。水温の低い地中海でも余裕で冬を越します。細胞の自己修復機能を持っていて無性生殖が可能なので、漁業用の網に付いたほんの少しのかけらからでも復活して繁殖してしまうとのこと。ちぎってもちぎっても生えてくるって、ドラゴンボールの悪役じゃあるまいし。しかも毒までもっているので、魚やタコ、ウニ等に食べられる心配もありません。

 変異型イチイヅタは地中海全域のみならず、アメリカ西岸、オーストラリア東岸の一部にまで生息域を延ばしていています。このままでは世界各地の生態系に多大な影響を与えかねないので、さまざまな駆除方法が考案されていますが、現状ではダイバーがもぐって手作業でブチブチ引っこ抜くしかないらしいです。天敵であるナメクジの一種を使って駆除しようという試みもあるようですが、今度はそのナメクジが増えすぎて大変なことになるとか、そもそもそのナメクジは暖かい海でしか生きられないとかいろいろ課題があるようです。

 日本では海藻からバイオエタノールを作るとかいう話もあるみたいですし、むしろ繁殖力の高さを生かしてエネルギーとして利用したりできないもんですかね。

関連URL

*1:写真はWikipediaより拝借。パブリックドメイン