木材化学オタが非オタの彼女に木材化学世界を軽く紹介するのための10項目
元増田さんはこちら
- アニオタが非オタの彼女にアニメ世界を軽く紹介するための10本
- http://anond.hatelabo.jp/20080721222220
で、化学部の方々の改変を見て触発されたので、今更ですが頑張ってみます
- 化学オタが非オタの彼女に化学世界を軽く紹介するのための10物質 - 有機化学日誌
- http://d.hatena.ne.jp/chap_py/20080803
- 色素増感オタが非オタの彼女に色素増感世界を軽く紹介するための10本 - 兎にも角!?
- http://d.hatena.ne.jp/myu65/20080804
まあ、どのくらいの数の木材化学オタがそういう彼女をゲットできるかは別にして、「オタではまったくないんだが、しかし自分のオタ趣味を肯定的に黙認してくれて、その上で全く知らない木材化学の世界とはなんなのか、ちょっとだけ好奇心持ってる」ような、ヲタの都合のいい妄想の中に出てきそうな彼女に、木材化学のことを紹介するために見せるべき10項目を選んでみたいのだけれど。(要は「脱オタクファッションガイド」の正反対版だな。彼女に木材化学を布教するのではなく相互のコミュニケーションの入口として)
あくまで「入口」なので、時間的に過大な負担を伴うマニアックなものは避けたい。できれば教科書に出てる項目、少なくともニュートンムックにとどめたい。あと、いくら木材化学的に基礎といっても古びを感じすぎるものは避けたい。木材化学好きが『スタウディンガー』は外せないと言っても、それはちょっとさすがになあ、と思う。
そういう感じ。
彼女の設定は
という条件で。
まずは俺的に。出した順番は実質的には意味がない。
アスピリン
まあ、いきなりかよとも思うけれど、「アスピリン以前」を濃縮しきっていて、「アスピリン以後」を決定づけたという点では、外せないんだよなあ。知名度もあるし。
ただ、ここでオタトーク全開にしてしまうと、彼女との関係が崩れるかも。
木材抽出成分の医薬品としての利用について、特に有機合成という手法を用いて医薬品の大量生産を可能にしたという事実について、どれだけさらりと、嫌味にならず濃すぎず、それでいて必要最小限の情報を彼女に伝えられるかということは、オタ側の「真のコミュニケーション能力」の試験としてはいいタスクだろうと思う。
セルロースの全合成
アレって典型的な「オタクが考える一般人に受け入れられそうな化学反応(そうオタクが思い込んでいるだけ。実際は全然受け入れられない)」そのものという意見には半分賛成・半分反対なのだけれど、それを彼女にぶつけて確かめてみるには一番よさそうな反応なんじゃないのかな。
「木材化学オタとしては、保護基の立体障害と、六員環の歪みを利用した反応選択性の制御は画期的だと思うんだけど、率直に言ってどう?」って。
X線結晶構造解析
ある種のSF木材化学オタが持ってるセルロースの結晶構造への憧憬と、放射線を用いたオタ的な実験手法へのこだわりを彼女に紹介するという意味ではいいなと思うのと、それに加えていかにも天然化合物的な
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- 「秩序」を体現する結晶領域
- 「カオス」を体現する準結晶領域
の2つをはじめとして、オタ好きのする多様な結晶パターンが見られるのが、紹介してみたい理由
キシリトール
たぶんこれを見た彼女は「ガムだよね」と言ってくれるかもしれないが、そこが狙いといえば狙い。
キシリトールが白樺の木から作られていたこと、これがフィンランドで虫歯の予防に使われたこと、キシリトール商品の流行により原料調達が困難になり、中国に生産拠点を移したことで、中国の環境破壊の一因になっていること、なんかを非オタ彼女と話してみたいかな、という妄想的願望。
水素、一酸化炭素
「やっぱり物質は人間が豊かに暮らすためのものだよね」という話になったときに、そこで選ぶのは「バイオエタノール」でもいいのだけれど、そこでこっちを選んだのは、シンプルかつ多様な戦略性が好きだから。
断腸の思いで木材を高温で熱分解してそれで水素と一酸化炭素、っていうシンプルさが、どうしても俺の心をつかんでしまうのは、その汎用性へのこだわりがオタ的だなあと思えてしまうから。二原子分子まで分解すると、さすがにもう削れないだろうとは思うけれど、一方でこれが燃料に利用するだけならエタノールで十分だろうとも思う。
なのに、わざわざ水素や一酸化炭素まで分解して汎用性を増す、というあたり、どうしても「自分の物語を形作ってきたものが捨てられないオタク」としては、たとえFT合成反応がそういう目的でなかったとしても、親近感を禁じ得ない。ポスト石油化学として燃料電池やC1化学の重要性と合わせて、そんなことを彼女に話してみたい。
セルロイド
今の若年層でセルロイドを知ってる人はそんなにいないと思うのだけれど、だから紹介してみたい。
高分子化学の成立よりも前の段階で、誘導体化による天然高分子の改質と機能化はこの物質で頂点に達していたとも言えて、こういうクオリティの物質が様々な日用品としてこの時代に利用されていたんだよ、というのは、別に俺自身がなんらそこに貢献してなくとも、なんとなく木材化学好きとしては不思議に誇らしいし、繊維という形でしか木材化学を知らない彼女には見せてあげたいなと思う。
リグニンの生合成
生合成経路としては稀に見るラジカル重合反応をオタとして教えたい、というお節介焼きから見せる、ということではなくて。
「法則性の無い複雑な化学構造を紐解くロマン」的な感覚がオタには共通してあるのかなということを感じていて、だからこそ木材化学の面白さはリグニンの複雑な化学構造以外にはあり得ないかとも思う。
「なぜこのような複雑な構造になったのか、その源泉を知りたい」というオタの感覚が今日さらに強まっているとするなら、その「オタクの気分」の源はリグニンの生合成経路にあるんじゃないか、という、そんな理屈はかけらも口にせずに、単純に自然が生み出すカオスの神秘を楽しんでもらえるかどうかを見てみたい。
シクロアワオドリン
これは地雷だよなあ。地雷が火を噴くか否か、そこのスリルを味わってみたいなあ。
こういうネタっぽい化学を徳島の地元を愛する化学者が推進していて、それが非オタに受け入れられるか気持ち悪さを誘発するか、というのを見てみたい。