賢者の方々へ質問です。あなたが読んだ「さとりのしょ」を教えてください。

賢者の方々へ質問です。あなたが読んだ「さとりのしょ」を教えて… - 人力検索はてな


 という質問をしてみました。あえて質問の意図を伏せて公開したので、仏教系の書籍を紹介しておられる方もいらっしゃいました。分かりにくくて申し訳ありませんでした。この質問の本当の意図に辿り着けるかどうかというのが、実は「賢者」かどうかを判断するための篩だったのです。


 以下、解答編ですが、じっくり考えたい人のために続きを読む記法にしておきます。


質問の意図

ドラゴンクエストIII そして伝説へ…

ドラゴンクエストIII そして伝説へ…

 お察しの通り、DQ3ネタです。
 DQ3ドラゴンクエスト3)を知らない人にも分かりやすく説明しますと、これは1988年に発売されて社会現象にもなった、エニックス(現・スクエニ)製作のファミコン用ゲームソフトです。その後スーパーファミコンゲームボーイへの移植が行われ、未だ根強い人気を誇っています。


 DQ3の世界には勇者(世の悪を打ち倒すことを専門とする職業ニート)とか魔法使い(魔法で敵を攻撃できる)とか僧侶(仲間の傷を治す魔法をつかう)がいます。ゲームのプレイヤーは、彼らが徒党を組んで魔王(「諸悪の根源」役)を倒すストーリーを眺めながら、勇者に命令を出したりカッコいい剣とかダサいパンツを装備させたりします。「おままごと」に似ているかもしれません。DQ3はRPGロールプレイングゲーム)というジャンルに属していますが、それはある役割(ロール)を演じる(プレイ)ということ。つまりは勇者の立場、解釈によっては「仮想世界の神」の立場を演じて楽しむゲームなのです。


 賢者とは、その中に登場する最強の職業の一つで、魔法使いと僧侶が取得できる魔法を全て使うことができ、魔法で敵を攻撃しつつ仲間の回復もできるオールマイティな反則職なのです。そして賢者になるためには、原則として「さとりのしょ」というモノが必要になるわけです(例外あり)。


 「さとりのしょ」を読む(使う?)のには、ゲーム内時間でものの数秒もかかりません。あっという間です。にもかかわらず、世の中の全てを知り尽くしたような最高に賢い奴になるのですから、「さとりのしょ」にはとんでもなく貴重で入手困難な情報、世界や人生の根幹に関わるような原則が、完璧に要約されて短い文言で記されているに違いありません。おそらくこの「さとり」には、いわゆる仏教的な狭義の「悟り」も含まれてくると思いますが、どちらかと言うと修行を重ねて悩み抜いた末に達する境地というよりは、魔法という「ツール」をさくっと使いこなすための基本原則、ひいては即物的、科学的、原理的なブレイクスルーと言ったほうがしっくり来るのです。


 ただし、賢者になるとレベル1(ひよっこ)に戻るため、もう一度最初から修行しなおさなければならないというデメリットもあり、修行中は完全に役立たずのお荷物になってしまいます。それまでに優秀な魔法使いとして活躍してた人が、急にお荷物扱いされるのですから、その精神的なプレッシャーや将来への不安は計り知れないと思います。そのリスクを見据え、それでも将来を見越してチャレンジする姿は、現実世界における恋愛、進学、就職、結婚、転職といったターニングポイントを迎える人の姿と重なります。賢者に転職すると言うことは人生の一大決心であり、自分の未来への挑戦でもあるのです。


つまり本質問は、

  1. 比較的短時間で手軽に読めて
  2. 世界および人生の根幹に関わるようなブレイクスルーが得られ
  3. それを読むことが自身の人生の分岐点になった


以上の条件を満たす書籍の比喩として、DQ3における「さとりのしょ」を引き合いに出したのです。ぶっ飛んだ比喩過ぎて回答者の皆様からは非難を浴びそうですが、まあそういうことなのです。

僕の回答

POPな哲学―哲学を身近な話題でダイジェスト

POPな哲学―哲学を身近な話題でダイジェスト

 非常に分かりやすい哲学の入門書です。古代ギリシャからサルトルソシュールハイデガーまで、ポップな実例を交えて広く浅く網羅的に説明してあります。この本を読んだのは高校2年生の時で、ものの見方が圧倒的に変わり、あと倫理の授業が楽しくなりました。
 当時人間関係や自分の能力のことで悩んでいたのですが、ヤスパースの限界状況、構造主義デリダ脱構築といった概念を知るごとに、自分がいかに小さな存在であり、かつ社会と言う有りもしない枠にはめ込まれているのかということを理解しました。その後、これまでの皆勤を破り、1年間ほどの半不登校を経験しつつ、出席日数ギリギリで大学に進学しています。


新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く

新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く

 フリースケールネットワークという概念の話。卒業研究でたまたまバラバシの論文を読む機会があり、社会、経済、物理、生命、あらゆるものの関係性が一つのトポロジーで説明できることを知り衝撃を受けました。
 世の中で自然発生したネットワーク、例えば経済活動のつながり、インターネットのリンク、性的なつながりなどは、決してランダムに繋がっているのではなく、一部の強大なキャパシティを持つ端末(ハブ)に集中して繋がっているらしいです。このシステムにおいて、マイクロソフトやグーグルは一人勝ちし、仕事のできる人にはさらに仕事が増え、フリーターはいつまで経ってもフリーター、モテる奴はモテ続け、エイズの撲滅は困難。
 そして、その原理を知っていればある程度自由にネットワークを操作できます。例えば、ある業界においてできるだけ多くの知り合いを作りたいとき、その業界におけるハブの人2〜3に接触するだけでほぼ全て網羅できるとか、特定のネットワークをつぶしたい時には、そのハブを潰せば良いとか。
 この概念はまさに世界の根幹に迫るルールの一つだと思います。学部4回生のときから暫くバラバシの論文やこの本を読んで、なんだか達観しちゃいました。自分に自信をつけた一冊です。



 カート・ヴォネガットの名作SF。爆笑問題太田光がこの本に感銘を受け所属事務所名を「タイタン」にした話はあまりにも有名。マラカイ・コンスタントという若者が、ラムフォードという預言者のごとき存在に振り回されて、地球、火星、水星、タイタン(土星の衛星)を往来する、波乱万丈な人生を描いた作品です。
 世界の経済の中心に居た投資家マラカイは、全て自分の意思で動いていると思っていたけれど、実はラムフォードに運命を握られていて思うがままに操られていて、その完璧な存在であるラムフォードすらも実はトラルファマドール星人に運命を握られていた。そして地球の歴史すら操ってきたトラルファマドール星人のサロは、友人ラムフォードの消滅に動揺し、自分を分解してしまうことになる。
 結局、みんな自分の意思で生きているつもりでも、誰一人として自分の意思で生きることは出来ない、他の人との関係性の中で生きているのだと言うことをこの話から悟った気がします。これを読んだのは修士1回生の時で、とある人間関係のトラブルを一気に払拭し、むしろ自信にしました。


今日の鬱しりとり:不平等条約